下のボタンが
見えている間に ダブルクリック できるかな |
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
『日本製』それはその昔、粗悪品の代名詞でございました。国産の肉や野菜が高価である事実を目の当たりにしている現代っ子には「日本製は高い」という意識が根付いていることでしょう。日本の技術が高く買われ、日本人の器用さが高く買われ、性能が良く値段の安い『日本製』は多くのジャンルで重宝されています。かつての「粗悪品」のイメージを覆し『信頼できる日本製』になったのです。
ニッポンのジャパン力とは何でしょう?国際的にみれば時にブランドにまでなっている「メイド・イン・ジャパン」なのに、国内でのジャパンはいい加減なことばかりが発覚してしまいます。
そこで当研究所は、戦後からのジャパン力に着目してみました。平成のジャパ~ン力ではなく、あえて戦後復興期から高度経済成長期にガッツを見せた先人のジャパン力で勝負するのです。そこには物資の乏しさ、創意工夫がありました。便利を作りだす能力は不便の中から育ったものでした。そして何より、地味なコツコツがあったはずなのです。いつの間にかニッポンは華美なひと儲けに現を抜かすようになってしまいました。地味にコツコツと努力することをよしとしなくなって久しい平成の昨今では、なんでもコンピューター処理です。そんな現代で熱いのは、人間ではなくパソコンの裏とエアコンの室外機なのです。
当研究所は、地味にコツコツとはどういうことなのか、熱いとはどうゆう人間のことをいうのか、それを額面通りに平成っ子に訴えてゆきたいと考えております。ですからの手作業、ですからの隙間活動です。そしていついかなる時でもその内容は熱い!のです。暑苦しいほどに。
地味なコツコツで暑苦しいほどの熱い内容を基本理念に掲げている当研究所では、地味の限度を若干こえた白紙製本をまずは行います。再利用紙を使用しますが、その紙の種類には規定がありません。
紙の質やページ枚数、大きさ等々その時々で様々ですが、これは色々の恋々な再利用に至った経緯によるもので、「捨てる」ということを思い切れなかったからこその、産み出された創意工夫であると主張しておきます。そうこれが、ジャパン力です。
合言葉は「モッタイナ~イ」
3号ホチキスによるジョイント製本(針が手元にないという不測の事態が発生した際には和綴を採用)で、市販されている製本テープや、何かに使った余りの布テープを使用して仕上げます。
表紙や製造元表示のステッカーは当研究所の文明の利器パーソナルコンピューターで作っています。使っている機械がハイテクノロジーではありますが、やっている作業自体が地味にコツコツの繰り返しであるために、このステッカーを完成させるのに約一週間を要します。
再利用紙は主にページとして使用します。用無しになったカレンダーをリユースした場合なら、紙質は上等なのに片側しか文字が書いていないページで構成される本となります。
使い切れずに余ったさんすうノートの最後のほうや殴り書きの芸術が爆発した勢いでトばして抜けたらくがきちょうの途中のページなども当研究所はリユースしています。
人畜に無害なばかりか地球にまでおやさしいこの再利用紙使用のフリーペーパー『有料』は、ローコスト・ノンストレス・ノットフォーセールにシュガーレスと、とにかく省エネルギーですが手間だけが唯一、膨大にかかっています。
真っ先に省けるはずである手間をかけている理由は、無駄ともとれるこの手間を惜しまない作業こそが、ジャパン力の源だからです。
国産であるということ。それは悲しいかな必ずしも安心であることと直結しているわけではございません。高価であることを、国民が安心・安全の判断材料にするわけではないということなのです。
日本人の思う「国産」と外国人のみた「メイド・イン・ジャパン」との間に、少しばかりのズレを感じないでしょうか。
無駄を省いてきた我々日本人は、便利で合理的な生活とひきかえに、暇潰しの方法を忘れました。潰すべき暇がなくなり、暇潰しの方法を探る必要はなくなったのです。暇を潰そうとしなくても旅行会社が旅行のプランを考えてくれています。
このように楽しむプランまで自分で考えなくてもよい時代ですから、当研究所が地味にコツコツと熱くフザけたからといって、日常が変わるということはございません。同じ明日がやって来るのでしょう。万に一つ変わる何かあるとするなら、それはあなたかもしれませんね。それならば我々は言わねばなりません。…ご愁傷様と。
ゑすトリア研究所はこの度『有料』というタイトルのフリーペーパーを企画・制作いたしました。
御覧の通り手づくり風でも職人仕立てでもない、完全なる手作業です。
このフリーペーパーは当然のことながら無料ですが、他のフリーペーパーとの差別化を図るため、自由な工夫が施されています。
他のフリーペーパーが定期的に曜日や日にちを定めて発行しているのに対し、当研究所の『有料』は一日に三冊も発行したかと思えば、二カ月間平気で音沙汰が無かったりもします。
また、「フリー」の範囲を広く設定することで、情報誌としての情報量を「こんな情報を誰がいるか」や「いったいこれは何ぞや」というジャンルまでカバー出来ていますし、特別ふろくと謳っておきながらこれといって特別でもなんでもないふろくを付けるなど、とかく「フリー」に関しましてはこれ以上にないフリー感を全面に出して、手作業に没頭しています。
またその配布形態もフリーで、通常のフリーペーパーと明らかに違う点は「どこかしらに落ちている」ことだと言えるでしょう。もちろん、建物の入口などの無料誌ラック設置場所に、通常の無料誌と共に、ひっそりこっそりと紛れているという配布形態もないこともないわけですが、当研究所の扱いとしましては基本的に「奉納」の形をとることで決定いたしました。これに関しましては種々の形態がございますので、参考資料を示しながら、わかる程度に説明をさせていただきます。
「奉納」とは献上することでございます。差し上げること。ゑずトリア研究所は流行りも取り入れまして「エキマエ」というアイテムをいくつか作りました。これは販促グッズのポケットティシューの隙間に『有料』を挟み込んだ斬新なセット内容になっています。
どこよりもローコストをウリにしている当研究所は、この「エキマエ」のセットを作るにあたりポケットティシューを駅前で調達しました。無駄と抜かりがありません。
配布形態の前提でありますが、当研究所はヒューマンによるマンツーマンの冗漫は行っておりません。微専門的用語の乱用でなんのこっちゃわからんと存じますので端的に申し上げますと手渡ししちゃおらんということでご了承ください。よって、駅前配布スタイルであっても「エキマエ」セットは駅前で配っていることは一切無く、どこかに落ちています。
どこに落ちているかというのを限定できる定位置を現在のところもっておりませんが、当研究所では常に前向きな見当しかつけてございませんので、今後「定位置」を提供してもよいとお考えの企業様がおられましたら、テレパシーでご一報ください。たまにキャッチします。
このような状況があります故、しばらくの間『有料』はおおかた隙間に落ちていると考えていただければ結構です。ちなみに、「しばらくの間」という期間が具体的にどのくらいの長さかというのを当研究所が算出しましたところ、データ上では実質「一生涯」という数値が出ています。健全な隙間産業と言いふらしてもらえれば、青年実業家より聞こえが良く、また、活動の幅も狭まりより濃密な活動に集中力を使い果たせるはずですので、隙間があれば気に留めてみてください。密かにグニュリと喰い込ませております。
それが当研究所が行っている隙間活動「奉納の儀」でございます。遠目にはわかりにくかろうと思いますのでどうぞ、そちら様から近づいていただけますよう、心の中の奥底の手前の横の、向こう三軒両隣りより、切に願いまして配布形態の説明のほう終了させていただきます。
参考までにフリーペーパー『有料』の隙間活動「奉納の儀」は武道便所のグレージーなる公衆便所報告とのコラボ企画を水面下で実施中につき、公衆便所の予備トイレットペーパーの芯の隙間にアチョーと喰い込ませていたり、水洗タンクと壁の隙間にティヤーと喰い込ませていたりする場合もありますので、ご注視いただければ幸いに存じます。
片田舎に若い夫婦が暮らしていた。間もなく妊娠・出産を経て二人は初々しい親となった。生後四ヵ月くらいのことである。夜中になると突然、火がついたように赤ちゃんが泣きだした。原因はわからない。新米パパと心配ママは我が子の原因不明の泣き叫びに頭を抱える夜が続き、すっかり精神的にマイっていた。婿養子として妻の豪邸に入った婿は、吹き抜けが我が子の泣き声に、より一層のエコーをキかせることを気にかけ始める。もうかれこれ三週間も、豪邸の闇に我が子の泣き声が響いている。入り婿は、このままではお義父様お義母様の睡眠まで阻害してしまうと気を病んだ。
「お義父様、僕たち一年ほど自立ってものを経験してみようかと思っているんですけどハハハ」
と、方便な嘘をついて婿は、妻子を連れ大邸宅を後にした。我が娘可愛さにこっそりと一年分の家賃と保証金を義父が支払った三畳一間のアパートは、妻が選んで来た風を装って住み始めたが、このアパートの不便さに妻は泣いた。我が子は未だ原因がわかぬまま泣いている。泣く我が子を抱きながら泣く妻を見て婿も、女々しく泣いた。こうして親子三人は、実質的に自立なんて出来ちゃいないアパートでの日々を、泣き暮らしていた。
(何か悪い病気にでもかかっているのではないだろうか…)
もの言えぬ我が子の身体が心配になり、婿は同僚に相談した。独身の同僚はためらいながら小声でこう言った。
「これは…あまり大きな声では言えないが…。同じような症状が出た子供を育ててる夫婦から聞いたことがあったなァ。おまえ、飛馬神社って知ってるか?」
「飛馬神社? 近いのか?」
「途方もなく遠いらしい」
同僚の話によれば、飛馬神社の巫女だけがその在処へと導くことの出来る「幻の滴」と称される「クナ」という名の飲み物があるらしい。それを一滴、泣きやまない赤ちゃんに飲ませるだけでたちどころに泣きやみ平和な夜が戻る。知る人ぞ知る魅惑の滴。しかし同僚は無責任に言った。
「そのクナってヤツが簡単に手に入らないみたいだぜ? オレが聞いたその夫婦もクナ汲みはあきらめたって言ってたし。失敗が怖くてやめたくらいだから相当アブナイとみたね、オレは。」
「失敗? 失敗するとどうなるんだ?」
「さぁね?」
沈黙が、続いた。
婿はそれから二週間ほど迷っていたのであるが、未だ続く夜中泣きっぱなしの我が子と、常に涙ぐんでいる妻を見るにつけ、巫女に会うだけでも会ってみようと飛馬神社を訪ねた。ちょうど鳥居をくぐったところで巫女の後ろ姿を認め、声をかけた。
「あのぅ、すいません。こちらの神社の巫女さんでク…」
「どうぞこちらへ」
振り返った巫女は「クナ」と言うのを阻むかのように掌を向け、婿を社務所へと導いた。先に中へ入った巫女は、ただ突っ立っているだけの婿に訊いた。
「息子さんが夜中に泣いておられるのですね?」
「いいえ、娘です」
赤ちゃんの性別を五分五分の賭けに出た巫女は、失敗した。婿の脳裏に「失敗」の二文字が浮かび、言いようのない恐怖と不安に交じって「なんでやねン」という思いが湧きあがった。
「ン…んンっん、ゴボゴボ…」
巫女はひとつやふたつやみっつばかし咳込んで、仕切り直した。
「クナを汲みに行くのは、容易なことではございません。数々の危険もございましょう。それでもあなたがどうしてもと言うならば、わたくしが先導して差し上げることは出来ます。しかしながら、いくつか申し上げておかねばならないことがございます。それを今、この場でお聞きになりよくよく考えてお決めください。今日明日のことではないのですからね? これから何年も先のあなたに関わることなのですよ? それでもあなたが決意を固くしてクナ汲みにと、おっしゃるならその時はわたくしも、覚悟を決めて道案内をいたしましょう」
婿は、聞けば聞くほど疑念が湧くその内容を聞いた。クナ汲みはこの巫女の先導なしには行かれないということを。クナ汲みを誰にも知られてはならないということを。もしもクナ汲みに失敗したら、末代までの祟りにより一族は破滅の道を辿ることを。
しかしクナ汲みに成功し、その一滴を赤ちゃんに与えることのできたその瞬間、本当の夜明けが来ることになるのだと巫女は太鼓判を捺す。
「今日のところはお帰りになりじっくりとお考えなさい、そしてやはりクナ汲みをやろうと思うならまたわたくしのもとへおいでください、その時は納得価格の九十七万円で力になりましょう、クナだけに」
と、巫女は言った。そしてこう加えた。
「再びここへおいでくださるその時までに、あなたがやっておかねばならぬことがございます。クナのことをあなたは誰かから聞き、知ったはずです。その人にお会いになり、クナ汲みをあきらめたのだと言わねばなりません。そして、あなたがクナ汲みをしている時この同じ日本に、妻子が居てはなりません。クナ汲みをすることを妻子はもちろん、決して誰にも知られてはならないのです。知られることこそが失敗なのですから」
婿は十三時間、思い悩んだ。十三時間という時間は飛馬神社から自宅アパート前犬走りまでの帰宅時間に相当する。婿はおもむろに玄関を開け、自宅に入り靴下を脱ぎながら妻に提案した。
「環境が変わると君たちの気分もよくなっていいんじゃないかな? この子も泣かなくなるかもしれない」
唐突に何を言い出すかと妻は訝ったが、婿は巧みに嘘をついて妻を説得した。妻子を遠い異国へと旅立たせたその日の夜、婿は同僚と立ち飲み屋にいた。話し込めば不安に駆られつい失敗の恐怖を漏らしてしまいそうで、立ち飲み屋にしたのである。クナ汲みをあきらめたとだけ言って立ち去りたかった。
「おまえ最近、痩せたんじゃないか? まだ子供は泣いてんのか? 一度、病院で診てもらったらどうだ?」
同僚は心配した。
「あぁ、もう一カ月以上だな、ずっと泣きっぱなしさ」
「オレさぁ? 気になって、あの夫婦にちゃんとクナのこと聞きに行ったんだよ。そしたら泣いてたっていうその子供、ぜんぜん泣いてないんだよ。あきらめるなんて言ってたけどやっぱクナを飲ませたんだろうと思って確認したら、巫女には会いに行ったけどクナ汲みはやらなかったらしいぜ? なんでも、巫女に会いに行った日に偶然、産婆さんに会ったんだと。そんでその産婆さんに子供の話をしてみたら、クナはいらないって思えてあきらめたって言ってたぜ? おまえも産婆さんに話してみな? いろんな子供を取り上げてるくらいだし、いろいろ知ってるに決まってるさ。もしかするとクナのことだって知ってるかもしんないぜ? 産婆さんに聞いてからでも遅くないだろ?」
「あぁ…オレ…実はクナ汲みをあきらめることにしたんだ」
「おぉ、そうか?」
「不甲斐ない父親なんだけど…失敗が怖くて…」
「気にするなっ! 誰だって失敗は怖いもんさ。あきらめるってのがいい選択だ。誰もおまえを腰抜けだなんて思わないさジョニー。父親なんだから、しっかりしろよ? さぁ今夜は呑もう! ここはオレの奢りさ~はっはっは~! ジャンジャン注いでくれよ、マスターっ!」
「お客さん、だいぶデキあがってますな? そのへんでやめといたがよろしいで?」
立ち飲み屋の大将が同僚に忠告した。
「オレじゃないんだよぅ、マスター。このチキンなダディにウォッカで乾杯だっ! なぁ、ジョニー?」
「どうします? お客さん、こんなんゆぅてはるけど?」
「…これ、二人分のお代です。もう酒は出さなくていいですよ。彼、酔っ払うといつもこうですから。ジョニーって言い出したらじきに帰る兆候です」
「おぉ~いジョニィイ~! 呑もうぜぇえ~?」
「悪いな、一足先に帰ることにするよ」
「おまえぇ~今日はノリが悪いじゃないか~」
「ジョニーになりきる気分じゃないんだ、あきらめてくれ」
そう言って立ち飲み屋から婿は立ち去った。
誰もいないアパートに帰り、婿は深いため息をついた。同僚の事は上手くやれたし、妻子も異国へ飛ばした。
「そうね、じゃぁ気分転換を兼ねてハワイアンキルトでも作ってくるわ」
と言っていた妻はとうぶん帰って来ないだろう。あとは、クナ汲みに集中・集中。明日のクナ汲みを滞りなくやり抜くため、婿は眠った。いつもなら我が子の泣き声が響く三畳一間は、シンと静まり返っている。
(いきなり静かで…逆にぜんぜん眠れん)
うるさいことが当たり前と思えるほど我が子が「泣き続けていた」夜だったという今までを痛感した婿は、いてもたってもいられなくなり、真夜中に産婆さんを訪ねた。
「ぁい~…なんじゃい…こんな夜更けに…」
産婆さんは婿を、ちょっと迷惑そうに迎え入れた。
「すいません…すいません産婆さん…こんな時間に…オレは…オレ…は…オレ…明日…明日クナ…クナを…うぅぅぅ…」
嗚咽する婿を見た産婆は熱い煎茶を淹れ始めた。
「まぁまぁ、とにかく落ち着いてそこに座りんしゃい。茶でも飲んで。何があったか話してみろ?」
煎茶をチビチビ飲みながら、婿はこれまでの日々を語った。響く泣き声に気を病み妻の豪邸を出てきたこと、泣き暮らしたアパートでの夜、「クナ汲み」の詳細を聞き決心したこと、妻子は異国へいることを言い婿は産婆さんに告げた。
「明日、僕は行くんです。クナ汲みをやるんです! 産婆さんなら知っているでしょう? クナですよ!」
決して誰にも知られてはならぬという約束を破り、不安に負けて婿はしゃべってしまった。婿のクナ汲みは今、失敗した。
「クナ? …はて? クナ…なんじゃそら?」
「…へ?」
婿の肩の荷はおりた。
「クナっちゅうのは知らんが、アンタの話から読むにそらアタシらが言うトコロの『虫散々』ちゅうヤツじゃけども?」
「…むし…さんざん…?」
「へぇ、へぇ。そりゃぁ昔っからアタシら産婆の間では『虫散々』が出とるじゃぁゆぅてな。『夜泣き』のことじゃ、ヨ・ナ・キ。アンタ、一人目の子供じゃったかなぁ? そらわからんじゃろうてのぉ。赤ちゃんはしばらくしたら、理由もなしに夜中に泣くもんじゃ。癇の虫が騒いどるだけのハナシじゃ、ほっといたらええ。夜泣きはな? 昔っからこう言うんじゃよ『癇の虫 散々泣いたら ハイしまい』泣かしといたらええんじゃ。泣かすことが親の務め、みんなそうやって大きくなったんじゃよ。」
婿は後悔した、育児書を読まなかったことを。すっかり心配事のなくなった婿は、
「ハワイに行ったら泣かなくなったわ~」
と帰って来た妻子と、豪邸に戻った。しかしどうゆうわけか、子供の夜泣きが復活。
「やだ…また泣いてるわ…ハワイでなくなったとばかり思っていたのに」
「お腹空いてるんじゃないか?」
「いいえ、さっき飲ませたばかりよ粉ミルク」
「じゃぁオムツだろ」
「ちっとも濡れてないじゃないのっ!」
「じゃぁ知らね」
「…っ! あなた、父親でしょ!」
「おまえは母親じゃねぇ~かっ!」
こうして闇夜、豪邸の吹き抜けに夫婦がやいのやいのと言い合う声が響くのであった。
をかし、をかし。
さて、この物語を変則七五調で短くまとめますとその語呂合わせで、要約した物語を言いながら円周率が書けるようになるでしょう。物語の所々を思い出しながら入り婿の気持ちを察してチャレンジすると、より間違いなく覚えることが出来るとともに、やりきれなさに満ち溢れる感情をとめることが出来なくなるようなら、しめたものです。
3.14 159 2
妻子異国に
65 35 8
婿と巫女は
97 93 2
クナ汲みに
38 46 2
産婆が読むに
64 33
虫散々
832 79
闇に泣く
50 2
困る二人が
8 8
やいのやいの